『探偵が早すぎる』(上・下)(井上真偽)
「本の虫」というと、芋虫のような虫をイメージしがちですが、その虫はやがて、サナギになり、蝶になるのでしょうか。
こんばんは。
リソルートです。
今日は、前回の反省を生かして、早めに12月分の読了を書こうかと思います。
以前に読んだ本を整理しながら、見つけたものを紹介します。
あらすじ
父の死により、5兆円という莫大な遺産を相続した、女子高生の十川一華。
その遺産を狙い、一族が彼女を事故に見せかけて殺害しようとする。
一華が唯一信頼する使用人の橋田は、命を救うためにある人物を雇った。
それは ”事件が起こる前にトリックを看破、犯人(未遂)を特定 ” してしまう究極の自称:探偵。
史上最速で事件を解決、探偵が「人を殺させない」ミステリー。
『探偵が早すぎる』
この本は、半年ほど前に本屋で見かけて、いつものごとくジャケ買いした作品です。
帯の煽り文句、『犯罪防御率100% ミステリ史上最速の探偵』!
これはすごい。
本作の登場人物も作中で言っていますが、「探偵とは、事件が起きてから解決するもの」という考えが一般的です。
「探偵小説なら私も少しは読むよ。シャーロック・ホームズもののドラマとかも好きだし――だから言うんだけど、私のイメージだと『探偵』って、どうしても『事件が起きてから解決する人』って印象が強い。ほら、このまえ一緒に見たでしょ。ポアロのドラマ。タイトルなんだっけ……貴族の宝石が盗まれるやつ。あれ見て私、少し笑っちゃった。だってポアロ、宝石盗難事件の解決の為に呼ばれたのに、『前の事件から時間が経ちすぎてて犯人捜しづらいから、もう一回事件が起こるのを待つ』みたいなこと堂々と言うんだもん。おいおい、待つのかよって……」
キィ、と車椅子を揺り動かす。
「でも、探偵の役割って、結局そういうことでしょう?事件の解決装置。でもそれは被害者には一つもありがたいことではなくて、その切れ味鋭い推理を喜べるのは、あくまで残された遺族や事件関係者たちだけ。
だから、悪いんだけど、その橋田の作戦に必要なのは『探偵』じゃないと思う。私が殺されたあとに事件が解決されても、私ちっとも嬉しくないし」
登場人物の、登場人物ならではの意見も、なるほどと思うわけです。
先日の金田一耕助などは、犯罪防御率はすごく低いですね。
そして、本作は、それを真っ向から否定します。
橋田は庭の蓮池を眺めているようだった。
「私の知り合いは……それとも少々違います」
「未然に事件を防ぐ探偵」
これまでの歴代名探偵たちが成し得なかったことを成し遂げようというのです。
(ちなみに、文中の”貴族の宝石が盗まれるやつ”とは、『二重の手がかり』だと思うのですがどうでしょう・・・?)
これは推理小説ではなく、探偵譚である。
誤解を招く言い方かもしれませんが、僕はこれを推理小説と呼ぶか疑問です。
僕がこの本を読んで思った第一感想は「早すぎる・・・!」でした。
看板に偽りなし。
ただ、そのあまりのスピードに、僕ら読者含め、依頼主である一華が、”事件が未然に防がれていた”ことにすら気づかない!
そして、探偵の謎解きによって、事件が未然に防がれていたことが分かる。
シャーロック・ホームズも真っ青の超人ぶり。
そこには、「筆者vs読者」という、僕の慣れ親しんだミステリの構造はなく、ただ、淡々と、超人(かっこいい)のはたらきを第3者視点で見ていくのみです。
下巻の帯には、『空前絶後の探偵無双 犯人同情度No.1』と書かれています。
犯人に同情するかはともかくとして、文字通りの”探偵無双”なわけですね。
おわりに
誤解のないように断っておきますと、これは推理小説ではないかもしれませんが、読み物としてはすごく面白いということです。
従来のミステリの前提を、大きく覆すような、それでいて、しっかり読み物として完成している。
こんな本にはなかなかお目にかかれません。
作者との対決など忘れて、ひとつの探偵譚として楽しみましょう。
この記事を書くにあたって、少し調べてみましたが、ドラマ化もしているようです。
それを踏まえて考えると、たしかに、斬新で、それでいて大衆受けするものなのではないでしょうか。
また、机上の空論レベルのトリックの豊作、それを華麗に回避する探偵、それにまつわるストーリー展開、多少のご都合主義、と読みごたえもあります。
一読する価値はありますよ。
では。
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