『月光ゲーム(Yの悲劇’88)』(有栖川有栖)

有名ミステリでありながら、未だ読んだことのなかった『Yの悲劇』を電子書籍にて読了。
やはりミステリはおもしろい。
ということで、重大なネタバレには気を付けつつ、所感と考察を。
『月光ゲーム』の特徴:クローズドサークルによる群像劇
あらすじは、キャンプに行った大学生集団が、自然災害等によって孤立し(クローズドサークル)、その中で殺人事件が起こるというもの。
うん。普段ミステリの感想をまとめないので、どこまで話していいか判断しかねますね。
今回僕が、「群像劇」と思ったのはですね・・・
“読者への挑戦”を受けて、犯人を推理しようとしたところで、考えるのを躊躇してしまった。
登場人物が多い!
いや、これくらい普通ですよって言う人もいると思うんですが、全員大学生で、主人公と同じ英都大学の4名、雄林大学の10名、神南学院短期大学の3名、計17名。
綽名(ニックネーム)で呼ぶ人と呼ばない人がいて、文字だけで「この人とこの人がこうで、あの時こうしていた人と同じ人で・・・」と見ていくには、なかなか大変かと思います。
映像化はされていないようですが、マンガはあるみたいなので、視覚的に理解できるような媒体のほうが楽しめるかもしれませんね。
ということで、覚書や整理も兼ねて、登場人物紹介をしていこうかなと思います。
登場人物の詳しい紹介
では、個人的見解を含む、登場人物の紹介をしてみましょうか。
<英都大学・推理小説(ミステリ)研究会> 4名
京都の私立の大学、と作中に明記されている。モデルは京都大学だろうか。推理小説研究会は、部長いはく、「何をしたいのか、何をするのか判らん人間の集まり」。
・江神二郎(部長、長老)
文学部4回生。専攻は哲学科。自然なウェーブの肩までの長髪。クールで静かな佇まい。深い知識と落ち着いた雰囲気。喫煙者。
非常にミステリアスな存在で、「あ、この人が今回の探偵役だな」と思わせてくれる。主人公が惹かれるのもわかる立ち居振る舞い。もっとも、最近、探偵役が真犯人だったり、殺人が起こる前に探偵役が消えたりする物語も読んだので信用しすぎないように。
・望月周平(モチ)
経済学部2回生。シルバーフレームの眼鏡をかけたひょろりとした人物。ミステリは論理派。フィルムカメラを持っている。
自分、モチさんと気が合いそうです。
・織田光次郎(信長)
経済学部2回生。体形はずんぐり。ミステリはハードボイルド好き。尾張名古屋の出身。今回の矢吹山でのキャンプの発案者。
・有栖川有栖(アリス)
法学部1回生。読者視点。作中に登場する「僕」。ご丁寧に作中に“あなたは記述者=犯人説を捨てなくてはならない”と書いてあるところもにくい。
<雄林大学・ウォーク> 7名
東京の大学。山歩きやハイキングの同好会。
・北野勉(ベン)
経済学部3回生。健康的に日焼けした愛想のいい男。我らの司会者、と言われるくらいにはコミュ力が高い。ボーイスカウト出身でキャンプを仕切ってくれる。元は美大志望で、スケッチブックを持っている。
・司隆彦(ピース)
商学部3回生。野暮ったくてちょっとバンカラ風。ニックネームのピースは、彼の喫うタバコの銘柄から。ヘビィスモーカー。嵐竜子と交際している。
・戸田文雄(弁護士)
法学部2回生。ニックネームはキャンプにまで小六法を持ってくるほど熱心なことから。キャンプにラジオを持ってきた。
・竹下正樹(博士)
理学部2回生。坊ちゃん刈り。
多分、自分がこの物語の登場人物だったなら、この人くらいの役周りだろうと思う。
・晴美美加
文学部3回生。尖った顎に意志の強さを示す。女史。イメージ的には、スーツのキャリアウーマン。どうでもいいけど、自立した大人の女性っていいよね。
・菊池夕子
文学部2回生。明るい。良くも悪くもイマドキの女の子っぽい。
・嵐竜子
文学部1回生。名前に似合わずシャイ。司隆彦と交際している。
<雄林大学・ゼミ> 3名
・一色尚三
法学部3回生。鼻の下によい髭をたくわえている。ハンモックは彼の持参品。ボーイスカウト出身。山崎小百合の指輪が抜けなくなっている。姫原理代の言では、山崎小百合のことが気になっている様子。
・見坂夏夫(神主)
法学部3回生。色白の美青年。細面の好青年。声も甘い。ニックネームの由来は実家が神社ということから。夜にアリス(僕)とお茶会(コーヒー)をしていることが多いと思う。
・年野武
法学部3回生。陽の見坂夏夫に対し、陰の者。堀の深い顔に憂いの翳。山崎小百合と良い感じ。
<神南学院短期大学> 3名
神戸の大学。関西弁の登場人物が多いように思うのは、作者が関西の方なのだろうか?
・山崎小百合(サリー)
英文科1回生。クリスチャンで十字架を下げている。人を惹きつける不思議な魅力を持っている。年野武と良い感じ。
・姫原理代
英文科1回生。艶やかな黒髪。ショートかボブだと思う。名前からわかる。めっちゃ可愛い子やん。華奢な体つきで身長は158cmくらい(妄想)有栖川有栖の想い人。
・深沢ルミ(ルナ)
英文科1回生。ポニーテール。ニックネームの由来は月人派から。最近の(?)言葉で言うなら、電波ちゃん。
以上、17名。
ちょこっとネタバレを含むかもしれない考察と感想。
トリックや物語の結末について
読み終わって思うことは、「30年も前に書かれたものだったのか・・・」という驚き。
どうも最近のミステリは、奇を衒ったものが多く(もちろん好物です)、非現実的な状況や、読者への挑戦を楽しむために、必要以上に情報や伏線があったりするものです。
けれど、この作品は、実に現実的で、犯人が証拠を残そうとしない。
動機も不明。殺人に不可解な点がない。つまり、トリックらしいトリックが見当たらない。証拠も当然見つからない。
これは、もしかしたら、ミステリとしては薄味だと言い出す人がいるかもしれない。
そんなことを感じました。
だからこそ、たったひとつのダイイングメッセージが大切で、”Yの悲劇”なんて題になるのかな、と思う次第です。
考えれば考えるほど、この物語の結末は、これ以外にないとさえ思えます。
もし未読の方がいらっしゃれば、ぜひ自力で謎を解くことをお勧めします。解けるはずです。
クローズドサークルを読むときに思うこと
うん。クローズドサークル。好きなんですよね。
クローズドサークルの定番なのですが、登場人物以外の人物、今回で言えば18人目がいて、殺人を犯している、という考えが出てこなかったのが少し不思議でした。
ですが、今回は、その役を、殺人が起こる前に行方を眩ました人物が担ってくれます。
行方不明の人物が、犯人なのか被害者なのか、はたまた・・・。
この点に着目した推理を披露したある登場人物が、推理をするためのキーパーソンだったのかもしれません。
この考察は、シティもの ではないクローズドならではのもののように思いますね。
長くなりましたが、今回はここまで。
秋の夜長にミステリー。
では。
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