『悪魔が来りて笛を吹く』(横溝正史)
1月3日の仕事はじめから9連勤となり、ようやくお休みをいただけました。
リソルートです。
冬期講習からの通常授業、という『忙→普』の流れもあったのでしょうが、惰性で仕事をしてしまっていけませんね。
やはり、メリハリは大事。休みは大切。
さて、今月の読了です。
実際に読んだのは、昨年末の12月でしたが。
『悪魔が来りて笛を吹く』
今回読んだのは、前々回の『獄門島』に続き、金田一耕助シリーズ、『悪魔が来りて笛を吹く』です。
空漠さんにコメントで薦めてもらい、光の速さで読みました。
終始、なんとも言えぬホラー感があって、ゾクゾクしながら読んでおりました。
ミステリ(今回のテーマは密室!大好物です)も良かったのですが、どちらかといえば、背景(人間ドラマ)がすごいですね。
あらすじ
本作もドラマ化等もされていますし、必要ない&冗長と感じる方もいるかもしれませんが、あらすじを。
『天銀堂事件と椿元子爵』
1月15日午前10時、銀座でも有名な宝石店『天銀堂』に男が来た。男は40前後の好男子で、東京都衛生局の肩書と井口一郎の名刺を持ち、伝染病の予防薬と称して青酸カリを持ち込む。店員13名に青酸カリを飲ませ、宝石を奪った。犯人捜査にモンタージュ写真が作られた初の事件ということもあって、『銀天堂事件』と呼ばれるこの事件は、人々の記憶に強く残った。
次に事件が動くのは、3月5日。元子爵の椿英輔(ひですけ)氏の失踪が朝刊に載る。崩壊しゆく貴族階級の悲劇の露頭だったので、大々的に報道された。実際には、3月1日の朝10時に出かけ、行方知れずとなっていた。
ここで、椿英輔氏について。氏は子爵であれど元々貧乏であり、妻、秌子(あきこ)氏(旧姓:新宮)の財産で暮らしていた。秌子氏には、叔父、戦前の貴族院のボスであり今なお政界に影響力を持つ、玉虫公丸(たまむしきみまる)伯爵という絶大なバックがついていた。そうであるから、英輔氏の家中での扱いは悪く、本人も野心家と言うよりは芸術家肌で、フルートを演奏するのが趣味という線の細い人間であった。
戦後、玉虫伯爵は英輔氏の家(もとは秌子の持ち物)へと移り住んでくる。それだけではない。秌子氏の兄、新宮利彦氏とその妻(華子)、息子(一彦)が椿邸に焼け出されてきた。妻、息子はいたって普通だが、利彦氏は、人生におよそ酒と女とゴルフしかないような道楽者であった。ワガママ伯爵と道楽義兄と同居しており、英輔氏が自殺を考えるのも無理はないと思われていた。
4月14日。信州霧ケ峰にて、男の死体が発見される。英輔氏の親族が確認に行き、身元が確認される。検視によると、死因は青酸カリによる自殺であり、3月1日には死んでいたとのこと。
『殺人三重奏と金田一耕助』
そんな昭和22年、金田一耕助は旅館の離れに住んでいた。依頼が来たのは9月28日のこと。依頼人は椿美禰子(みねこ)。椿英輔氏の娘である。依頼内容は、「英輔氏が本当に死んでいるのかどうか」。
死亡が確認されてから半年近く経っての依頼なのは、3日前の9月25日。秌子と、そのお付きのお種と椿邸に住む菊江は、東劇にて英輔氏らしき人物を目撃していた。美禰子は、霧ケ峰で英輔氏の遺体を、叔父利彦と従兄弟和彦、使用人の三島東太郎と確認したが、信じられなくなってしまったとのこと。
美禰子の本、『ウィルヘルム・マイステル』(おそらくは『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』(ゲーテ著))に挟まれた一通の封筒に、英輔氏の遺書が残されていた。それによると、椿家はある不名誉な秘密があるという。明かされれば椿家の家名は泥沼に落ちるほどであるという。
英輔氏はこの春、天銀堂事件の容疑者と疑われた。それは、作られたモンタージュ写真が似ていたこともあるが、家にいるものでなければ知らない内容を記した密告があったからであった。ほどなく疑いは晴れたが、密告したのは椿家に住む何者かである可能性が高い。
現在椿家に住むのは
<椿家> 妻:秌子 娘:美禰子 女中:信乃婆 女中:お種 使用人:三島東太郎
別棟に
<新宮家> 主人:新宮利彦 妻:華子 子:一彦
<玉虫家> 元伯爵:玉虫公丸 妾:菊江
更に、秌子の主治医である目賀博士が椿家に出入りしており、ほぼ家の人状態。
以上11名。
明晩、目賀博士が砂占いをする。金田一も客人として占いに参加し、家人たちと会い、密告者及び英輔氏の影をちらつかせ脅す人物を見極めてほしいとのこと。
翌日9月29日。夜8時に金田一が椿邸へやってきた。計画停電の中行われる砂占い。内容は『椿英輔が生きてるか否か』。お種を除く椿家と金田一11人は、黒いカーテンの部屋に入る。目賀博士は占いの祝詞を唱えていた。金田一は、菊江と三島の指が欠けていると気づく。停電が終わり明るくなった部屋の中、占いの砂の上には火焔太鼓の模様が浮かび上がった。
椿邸の二階からはフルートのメロディーが流れて来る。その曲は英輔氏が作曲した『悪魔が来たりて笛を吹く』だった。英輔氏の書斎には電気蓄音機があり、レコードが回る。時間差で演奏が始まる細工をされていた。
美禰子によれば、英輔氏の日記に「火焔太鼓は悪魔の紋章」と書かれていたらしい。金田一は12時に帰宅した。
翌朝6時半に美禰子から、殺人事件が椿邸で起こったことを告げられる。椿邸に警察が入る。殺されたのは玉虫伯爵であった。後頭部に裂傷があり、雷神像で殴られた跡があった。老人を死に追いやったのは布で首を絞められたから。英輔氏のアトリエで、密室殺人事件が起こったのだった。
読後所感
『獄門島』のときもそうでしたが、金田一の防御率低いな!(笑)
それから、日本の古典ミステリなので、トリックのネタ自体は、オーソドックスなものでしたね。
もっとも、横溝正史ら先人たちが開拓してくれたおかげで、それが王道となり、教科書的なトリックとなっているのでしょうが。
あとは、エンディングのシーン、フルートで『悪魔が来りて笛を吹く』が演奏され、犯人が明らかになるシーン。
なんだかどこかで以前に見たことがあるように思うのですが・・・。
他の作品でオマージュされていたりしましたかね・・・?
友人と話しての考察
空漠さんに薦められて読み始めたと言いましたが、空漠さんと考察をしてきました。
注意! 重大なネタバレを含みます!
未読なのに、重大なネタバレがあると言われて、それでも続きを読んでしまったあなたは、ミステリでは首を突っ込みすぎて3番目くらいの被害者になりますね(笑)
好奇心は猫をも殺す、ですよ。
それでは。
考察と言うほどの大それたものではありませんが、空漠さんの言を借りると、
「『真景累ヶ淵』って古典落語の怪談噺があるのだけれど、その噺の最後の場面と、『悪魔が来たりて笛を吹く』の犯人が殺人を決意する場面が良く似ているんすよね」
とのこと。
『真景累ヶ淵』(しんけいかさねがふち)は、明治期につくられた怪談噺の落語です。
概要としては、『累ヶ淵』という怪談を基につくられた噺で、
金貸しの皆川宗悦が、武士:深見新左衛門の家に借金の取りたてに行き、切り殺されてしまう。新左衛門は宗悦の亡霊に悩まされ気が狂う。結果、新左衛門は妻を殺し、自分も死んでしまう。
残された宗悦の娘と、新左衛門の息子たちが、そうとは知らず出会い、殺し合い、呪い呪われ、物語は進む。
最後のシーンでは、新左衛門の息子:新吉と、身寄りのない村娘:お賎の夫婦が、雨宿りに訪れた観音堂で老尼から話を聞く。
老尼は、新左衛門の妾であったお熊であり、かつて幼いお賤を捨てた母であった。
老尼から、生い立ち(自分とお賤は腹違いの兄妹であることや、自分が殺した相手がお賤の父親違いの兄であること)を聞いた新吉は、お賤を殺し、自分も自害する。
また、老尼も過去の殺人を白状し、自害する。
すごく長い噺らしく、僕も聴けていないのですが、こちらのサイトとこちらのサイトを参考にあらすじを確認しました。(無断リンク失礼。問題あれば削除します)
『悪魔が来りて笛を吹く』では、”畜生道に落ちる”という表現があります。
畜生とは、人として許し難い行為や生き方のことを指します。
特に、道徳的に許されない、近親相姦を犯すと、畜生道に落ちると言われています。
本作では、兄妹であるにも関わらず色堕した新宮利彦と新宮秌子の間の悪魔の子、河村治雄(=三島東太郎)が、新宮利彦がお駒との間に産ませた娘である小夜子と、腹違いの兄妹であるとは知らずに愛し合い、子を生してしまう。
別れさせる目的で出生を知らされた小夜子は耐え切れず、お腹の中の子と共に自殺してしまう。
戦争から復員した河村治雄が、淡路島の寺で出家していたお駒、妙海尼からことの顛末、生い立ちを聞き、悪魔を生み出した人々の殺人を決意する。
確かに、よく似ています。
本作で登場する、英輔氏からのメッセージ、『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』も、兄と妹がそれとは知らずに愛し合い、子どもができ、各々が不幸になってゆく様を描いた小説のようです。
横溝氏の真意はわかりませんが、作品をつくるテーマとして、モチーフにした可能性はありますね。
さて、そんな共通項を見出したあとで、空漠さんの言うには、
「西洋からミステリが入ってくる中で、日本の怪談話と融合したのではないか。ミステリの何とも言い難いおどろおどろしい雰囲気が、日本では怪談話に近かったのではないか。そういう雰囲気が日本産のミステリに溶け込んでいるように思う」
文学は専門ではありませんが、物語の造形や伝達についても考えてみると面白いかもしれませんね。
では。
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